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挿絵

第17章

棒の数

棒の間隔は三十センチだった。

三百三十三本で百メートル。一日に百三十メートル登るなら、一日に四百三十三本。上まで、一万二千六百本あまり。

三日目で数えるのをやめた。数えていると、数えるために登るようになる。

代わりに、ガラスの筒を数えることにした。

一日の終わりに一本使う。手の甲を小刀で切って、そこへ垂らす。傷はすぐ塞がる。塞がるから、毎日切る場所を変える。

三十本。減っていく数を数えるのは、増えていく数を数えるより楽だった。

*

三日目に落ちた。

右足が滑って、体重が腕にかかって、腕が伸びきって、指が外れた。

落ちたのは四メートルだった。下の棒に脇腹が当たって止まった。

肋が折れた音がした。

痛くなかった。

マーロウは棒にしがみついたまま、自分の脇腹を指で押した。中で何かがずれる感触があった。

ヴェスタの声を思い出した。三日で肋はくっつかん。

三日で、くっついた。

*

七日目に、横穴があった。

通路の壁に、人が一人通れる穴が開いている。灯りを入れると、小さな部屋になっていた。

床に骨があった。

人の形をしている。座った姿勢のまま、壁に背中を預けている。服はほとんど残っていない。

横に、革の袋があった。中にガラスの筒が入っていた。

八本。全部、空だった。

マーロウは骨の顔を見た。顔は残っていない。ただ、頭の骨の形が、自分のものと似ている気がした。気がしただけかもしれない。

八本ぶんで、この高さまで来た。

ここは九百メートルだ。八日で九百。一日に百十二メートル。計算はほぼ合っている。

九本目が無かったということだ。

マーロウは、自分の袋から空になった筒を三本出して、骨の横に並べた。

並べる理由は無かった。並べてから、少し気が済んだ。

*

十四日目、棒が無くなった。

四十メートルほど、壁に穴だけが残っている。棒が抜けたのではない。最初から打っていない場所のようだった。

穴に紐を通して、輪を作って、そこに足を掛けて登った。

四十メートルに、まる一日かかった。その日は百三十メートル進めなかった。四十八メートルだった。

筒は一本使った。

計算が狂った。

*

二十二日目に、袋を落とした。

肩から掛け直そうとして、紐が手から抜けた。

袋は十メートル下の棒に当たって、跳ねて、また落ちて、どこかへ消えた。

マーロウは下りた。四十分かけて八十メートル下りて、棚のようになった場所で袋を見つけた。

中を開けた。

筒が九本。うち三本が割れていた。

残り六本。今日を入れて、あと九日ぶん要る。

三本足りない。

*

二十二日目も、二十三日目も使わなかった。

二十四日目の夜、荷のいちばん奥に手を入れた。

布を巻いた筒が指に当たった。別の場所に入れてあるやつだ。

引っぱり出して、膝の上に置いた。

栓に手をかけた。

手をかけたまま、しばらく動かなかった。

サムには妹がいる。まだ十四だ。うちの隣に住んでいる。

ガスの声で、それを聞いた。

マーロウは栓から手を離して、筒に布を巻き直して、いちばん奥に戻した。

戻すのに、入れるときの三倍かかった。

二十四日目も使わなかった。

二十五日目の朝、マーロウは自分が棒を数えていることに気づいた。

数えるのをやめたのは三日目だ。いつから数え直したのか、覚えがない。

三千二百二十七、三千二百二十八。

数字が、頭の中で勝手に進んでいた。止めようとして、止まらなかった。

その日の夕方、独り言が出た。

「本日は、ここまでとさせていただきます」

暗い穴の中で、自分の声が四回返ってきた。

四回とも、同じ言い方だった。

マーロウは小刀を抜いて、左の手首を切った。深く切った。血が出た。

筒の栓を抜いて、傷に垂らした。

六本のうちの一本。

垂らした瞬間、傷の周りの血が黒い粒になって、ぱらぱらと落ちていった。落ちていく音が、下のほうでいつまでも続いた。

それから、寒くなった。

寒い、と思った。

マーロウは壁にしがみついたまま、寒さが来たことに笑った。声を出して笑った。

*

残りは五本。二十六日目から三十日目まで、ちょうど五日ぶん。一本も落とさなければ足りる。

落とした。

二十七日目の夕方、栓を抜こうとして指が滑った。筒は下へ消えた。音は返ってこなかった。

その日のぶんは別の一本で済ませた。残り二本で、三日ぶん要る。

マーロウは決めた。二十八日目は使わない。使わない日は喋らないことにする。

喋らなければ、あの言い方が出ない。出なければ、少なくとも自分では気づける。

それは対策になっていない。それしか思いつかなかった。

*

二十九日目、上が明るくなった。

最初は目の錯覚だと思った。三十日近く暗いところにいると、目は勝手に光を作る。

ただ、その光は動かなかった。

登るにつれて、はっきりしてきた。丸い。上のほうにある。

穴の口だ。

二十九日目のぶんを使った。残りは一本になった。

切って、垂らして、栓を戻して、空の筒を袋に入れた。

捨てなかった。九百メートルの骨のことを思い出したからだ。

*

三十日目の昼、穴の口に手がかかった。

縁は金属だった。下と同じ、錆びない金属だ。

マーロウは腕で体を持ち上げた。持ち上げる途中で、腕が止まった。

止まったのは力が尽きたからではない。

光が、明るすぎた。

三十日ぶんの暗さの後で、外の光は殴られるようなものだった。目を開けていられない。

マーロウは目を閉じたまま、縁を越えて、地面に転がった。

地面は、温かかった。

そして、平らだった。

手のひらで触った。砂ではない。岩でもない。継ぎ目のある、硬い、平らなものだった。

袋の中で、空の筒が触れ合って鳴った。最後の一本は、今朝使った。

第十七章 了

── 第17章 おわり ──

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孤独の大地
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